コンステラ経営相談所
経営のヒント

給料を上げても辞める理由
ハーズバーグ二要因理論で解説

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「給料が大事」が口グセになっている職場ほど、なぜか人が定着しない。その「給料」は必ずしも本心ではなく、職場に染みついた『お決まりの語り口』であることが少なくありません。ハーズバーグの二要因理論(衛生要因と動機づけ要因)から給料とやる気の本当の関係を解き明かし、人事担当者・経営者が今日から打てる二段構えの実践ステップを解説します。

現場で繰り返される逆説|給料を口にする社員ほど、辞めていく

なぜ給料を上げたのに社員のやる気が出ないのか
|中小企業あるある

「賞与を増やしたのに、社員が立て続けに辞めてしまった」
「給料を業界平均以上に引き上げたのに、職場の空気は重いまま」
「待遇は決して悪くないのに、社員のやる気が出ない」

中小企業の現場で本当によく聞かれる悩みです。社員のやる気がない・部下のやる気が出ない・給料を上げても辞めていく

── 経営者の感覚として最も自然な打ち手が、なぜか裏目に出るパターンです。

ここで一つ、現場で繰り返し観察される逆説があります。

「給料が大事」が口グセになっている職場ほど、人が定着しない。

社員の口から出てくる言葉が「給料が安い」「他社の条件がいい」ばかり、辞めていく社員も決まって「給料」を理由に去っていく。

── そんな職場ほど、実際には人が定着しないのです。

これは、個々の社員が一人ひとり本心から考え抜いた答えの集合ではなく、その職場の組織風土として制度化された『お決まりの語り口』であることが少なくありません。何か言うときに反射的に「給料」と返す。それが当たり前になっている。

なぜか。社員が「給料」としか口にしない職場は、経営者の側も給料・労働条件・人間関係といった「目に見える待遇」にしか手が届いていない可能性が高いからです。達成感・承認・仕事の意味・責任といった「目に見えないやる気の源泉」が手付かずになっている。

だから、給料を業界平均並みに引き上げても、賞与を増やしても、人は辞め続けます。

給料制度を放置していいわけではありません(待遇が業界水準を下回れば不満は爆発します)。ですが、そこを整えただけでは「不満ゼロ」止まりで、定着もやる気も生まれない、ということです。

「給料が大事」が口グセになる職場の構造|衛生要因しか整っていないから人が定着しない

この現象を理論的に解き明かすのが、ハーズバーグの二要因理論です。


なぜ給料だけを上げても社員は辞めるのか
|ハーズバーグの二要因理論

ステージごとの実践に入る前に、まずは二要因理論そのものをわかりやすく押さえておきましょう。

1959年、アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグは、米国ピッツバーグ地区のエンジニアと会計士203名を対象に、「仕事で満足したのはどんなときか/不満を感じたのはどんなときか」を研究しました(『The Motivation to Work』1959年刊)。

その結果、驚くべき発見がありました。

「満足の原因」と「不満の原因」は、同じ要因の表裏ではなく、まったく別物だった。

多くの教科書はこの調査を「給料は衛生要因、達成感は動機づけ要因に分かれた」という二分法で要約します。しかしハーズバーグの最大の発見は、二分法そのものではありません。満足と不満が同じ軸の両端ではなく、独立した別軸として動いていたこと。

── この非対称性こそが核心でした。

図1:ハーズバーグの二要因理論|衛生要因と動機づけ要因の対比図

ポイントは、上下が同じ軸ではない、ということです。

衛生要因をいくら充実させても、不満が「ゼロ」になるだけで、満足には直結しません。逆に、動機づけ要因を欠いたまま給料だけ上げても、社員のやる気は上がりません。

ここから、教科書ではあまり語られない含意が2つ出てきます。

含意1|「給料を雑にしていい」とは、ハーズバーグは一言も言っていない

「給料は衛生要因だから、いくら上げても無駄」と乱暴に解釈する人がいますが、ハーズバーグは「給料制度を放置していい」とは一言も言っていません。給料が業界平均を大きく下回れば、不満は爆発し、社員は確実に辞めます。衛生要因を整えるのは『必要条件』であって、『十分条件にならない』だけなのです。経営者がここを誤読すると「給料は関係ないらしい」と誤った安心に転びかねません。

含意2|「動機づけ要因が強ければ、衛生要因が弱くても残る」という非対称性

実は、衛生要因が業界水準を割っていても、動機づけ要因(仕事自体・責任・達成感)が強烈であれば、人は意外なほど留まります。逆に、衛生要因がいくら良くても動機づけ要因がゼロなら、人は一気に辞めていく。

── この非対称な力関係こそが二要因理論の真の発見です。

衛生要因と動機づけ要因の非対称な力関係|4象限マトリクス

しかも、ハーズバーグの研究は1959年のアメリカだけの話に留まらず、その後世界各国で追試され、文化・国籍・年代を変えても基本的に同じ結論が再現された、経営学のなかでも極めて頑健な知見の一つになっています。

衛生要因とは|給料はここに入る

衛生要因(Hygiene Factors)とは、不足すると不満を生むが、充実させても満足には繋がらない要素のことです。

具体的には次のようなものが該当します。

  • 給料・賞与
  • 労働条件(残業時間、休日、職場環境)
  • 福利厚生
  • 会社の方針や制度
  • 上司や同僚との人間関係
  • 雇用の安定性

注目すべきは、ここに給料が入っていることです。

ハーズバーグの研究では、「給料が低い」ことは強い不満の原因になりますが、「給料が高い」ことは持続的な満足やモチベーションには繋がらないという結果が出ました。

これは私たちの実感とも合います。給料が業界平均より大きく低ければ、社員は転職を考えます。これは衛生要因の不足です。ところが業界平均並みに引き上げても、それで「この会社で頑張ろう」とは必ずしもならない。さらに業界平均以上に引き上げても、半年もすればその水準が「当たり前」になり、満足は消えてしまいます。

つまり、給料アップは「マイナスをゼロに戻す」効果はあっても、「ゼロをプラスに変える」力はないということです。

動機づけ要因とは|やる気を生む4つの要素
──ここに「お金」は1つも入っていない

では、社員や部下のやる気を本当に生み出すものは何か。

ハーズバーグが大規模なサンプル調査の結果、有意性が確認できたとした動機づけ要因(Motivators)は、次の4つです。

  1. 達成(Achievement):自分の仕事を成し遂げた、という実感。困難な目標をクリアしたときの手応え。
  2. 承認(Recognition):自分の仕事や成果を、上司・同僚・顧客に認められること。「見られている」「評価されている」という実感。
  3. 仕事自体(Work itself):仕事の内容そのものが面白い、意味がある、自分のスキルを活かせると感じられること。
  4. 責任(Responsibility):自分で考え、自分で判断し、自分で動かしている、という主体的な手応え。

注目していただきたいのは、この4つに「お金」が一切入っていないことです。

人を本当に動かすのは、達成感・承認・仕事自体の面白さ・責任感である。

── これがハーズバーグの大発見でした。「優秀な人にこそ高い報酬を」という日本企業の常識的な発想に対して、動機づけの本体は金銭ではなく非金銭的な要因の組み合わせであると、半世紀以上前のデータがすでに突きつけていたわけです。

わかりやすく言うと「不満ゼロ」と「やる気MAX」は別の話

二要因理論を一言で言い換えると、こうなります。

「不満を解消すること」と「やる気を生み出すこと」は、別々の作業である。

給料アップ・労働条件改善は前者の作業。仕事の任せ方・評価制度・キャリアの設計は後者の作業。

両方やらなければ、社員は定着しません。そして多くの中小企業は、前者だけをやって、後者を「やった気」になっています。

ここまでで二要因理論の本体は押さえました。これを踏まえて、中小企業の経営者がやるべき二段構えのアプローチを結論として整理します。


結論|「給料を上げる」と
「やる気を引き出す」は別の作業

本記事の結論を先にお伝えします。

社員の定着とやる気には、二段構えのアプローチが必要。打ち手のロジックも逆になります。

ステージ1|まず「衛生要因」(給料・労働条件・人間関係)を業界水準まで整える → 不満を消す
ステージ2|次に「動機づけ要因」(達成・承認・仕事自体・責任)を制度化する → やる気を生む

ここで重要なのは、ハーズバーグが発見した最大の核心です。多くの教科書はこの理論を「給料は衛生要因、達成感は動機づけ要因に分けた」という二分法で要約します。しかし、それは表層の理解にすぎません。

ハーズバーグの真の発見は、満足と不満が同じ軸の両端ではなく、独立した別軸として動いていたこと。

── この非対称性こそが核心でした。だから次のような非対称な現象が起きます。

  • 衛生要因が悪くても、動機づけ要因が強ければ社員は意外と残る
  • 衛生要因が良くても、動機づけ要因がなければ一気に辞める

「給料を上げる」(衛生要因)と「やる気を引き出す」(動機づけ要因)は、まったく別の作業として設計しなければならない、ということです。

ここから、ステージ1(衛生要因の整備)から具体的にどう取り組むかを見ていきましょう。


ステージ1|社員が辞める原因はどこにあるのか|大半は衛生要因

最初にやるべきは、給料・労働条件・人間関係といった衛生要因を業界水準まで整えることです。これは「やる気を生む」ための施策ではなく、「不満を取り除いて辞めさせない」ための必要条件です。

公的データが示す「中小企業の離職理由」の正体

実際、社員が辞める原因の大半は、衛生要因の不足にあります。中小企業の離職率が高止まりする最大の要因も、ここにあります。厚生労働省の雇用動向調査を見ると、転職者が前職を辞めた主な理由は、給料・労働条件・人間関係といった衛生要因の不足に集中しています。

図2:中小企業の社員が辞める理由のトップ3はすべて衛生要因(厚労省2024年データ)

令和6年(2024年)の調査では、男性の離職理由トップは「給料等収入が少なかった」(10.1%)、女性は「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」(12.8%)。前年(令和5年)では女性で「職場の人間関係が好ましくなかった」が13.0%と最多でした。

これらの理由はすべて、ハーズバーグの言う衛生要因に該当します。つまり、社員が辞める直接の引き金は、衛生要因の不足であるということが、公的データレベルで明確に示されているわけです。

中小企業がまず棚卸しすべき4項目チェックリスト

経営者がやるべき最初の作業は、自社の衛生要因が業界水準を下回っていないか棚卸しすることです。

  • 給料は業界平均並み以上か(同業同規模との比較)
  • 残業時間は社員の生活を圧迫していないか
  • 休日や有給は実際に取得できる空気があるか
  • 上司・同僚との関係に深刻なハラスメントは潜んでいないか

ここが「マイナス」だと、何をやっても社員は辞めていきます。まず衛生要因をゼロライン(業界平均)に戻すこと。これが大前提です。

ただし注意すべきは、衛生要因を整えても、それは「離職を防ぐ」効果はあっても、「社員のやる気を引き出す」「業績を伸ばす」効果はないということです。ここから先のステージ2で、動機づけ要因の話に入ります。


ステージ2|やる気を引き出すのは何か|
ジョブエンリッチメントとジョブエンラージメントの違い

衛生要因をクリアしたら、いよいよステージ2、動機づけ要因の制度化です。

ここで多くの経営者が陥る誤解があります。「動機づけ要因が大事だから、社員にいろんな仕事をさせよう」「多能工化を進めよう」。

── これはハーズバーグの主張と微妙に、そして決定的にズレています。

ジョブエンリッチメント(職務充実)vs ジョブエンラージメント(職務拡大)

経営学では、この2つは似て非なる別概念として区別されます。

ジョブエンラージメント(職務拡大) ジョブエンリッチメント(職務充実)
提唱者 クリス・アージリス フレデリック・ハーズバーグ
方向性 横展開(仕事の幅を広げる) 縦展開(仕事の深さを増す)
具体例 多能工化、複数業務の兼任 責任権限の委譲、最終判断を任せる
効果 不満を減らす(衛生要因の延長) やる気を生む(動機づけ要因の本体)

動機づけになるのは『横の広がり』ではなく『縦の深さ』|ジョブエンリッチメント vs エンラージメント

ハーズバーグが動機づけ要因として推奨したのは、明確にジョブエンリッチメント(縦の深さ)であって、ジョブエンラージメント(横の広がり)ではありません。

つまり、多能工化や仕事の兼任で「幅を広げる」だけでは、動機づけにはならないということです。社員が本当にやる気を出すのは、「自分で最終判断する責任を任された」「仕事の中身そのものに意味を見出した」という縦の深さに対してであって、「色々な仕事を経験できる」という横の広がりではありません。

中小企業の現場で、この違いは決定的です。「色々な仕事を任せています」と語る経営者は多いのですが、その実態がジョブエンラージメント(横展開・多能工化)止まりだと、不満は減ってもやる気は生まれません。やる気を引き出したいなら、ジョブエンリッチメント(縦展開・責任権限委譲)まで踏み込む必要があります。

「やる気がない部下」は給料ではなく承認・達成感を求めている

ここまでの発見を踏まえると、現場の見え方が変わります。

「最近の若手はやる気がない」「中堅社員のモチベーションが下がっている」。

── こうした声は、中小企業の経営者・店長クラスからよく聞かれます。

ところが、二要因理論の視点で見ると診断は違います。やる気がない部下の多くは、給料に不満があるのではなく、「達成」「承認」「責任」という動機づけ要因が満たされていないのです。

  • ベテラン社員が惰性で仕事をしている → 達成感を感じられる新しい目標がない
  • 中堅社員のモチベーション低下 → 承認の機会が減り、責任ある仕事を任されていない
  • 若手の指示待ち化 → 仕事自体の意味づけや主体性を持てる余白がない

ここを「給料が安いせいだ」と誤診してベース給を上げても、半年で元通りになります。動機づけ要因の整備こそが、部下のやる気を引き出す本質です。

給料が「動機づけ要因」になる場合もある
──カギは『文脈』

ここで一つ、実務上の重要な注意点を補足しておきます。

「給料は衛生要因だ」と言い切ると、現場の感覚とズレる場面が出てきます。実は、給料が支給される文脈によっては、給料は実質的に動機づけ要因として機能しうるからです。

たとえば次のようなケースです。

  • 大きなプロジェクトを成功させた社員に特別賞与が出る → これは「達成」と「承認」の象徴になる
  • 昇進と紐づいた昇給 → これは「責任」の動機づけになる
  • 全社員の前で表彰しながらの金一封 → これは強烈な「承認」の機会になる

つまり、お金そのものではなく、お金がどんな文脈で渡されるかが重要なのです。ベースの月給を5万円上げても、そこに承認・達成・責任の意味が乗っていなければ、半年で「当たり前」になってしまう。逆に、額は小さくても「あなたの〇〇という行動を評価して、社長から手渡しで」という形なら、強烈な動機づけになりうる。

図3:同じ「給料」でも、文脈次第で衛生要因にも動機づけ要因にもなる

ここが、二要因理論のもっとも実務的に重要なポイントです。

給料は、それ単体では衛生要因。
しかし「承認・達成・責任の機会」と紐づければ、動機づけ要因にもなる。

この文脈設計こそが、賞与制度・評価制度・昇給の運用設計の勝負どころになります。額の大小ではなく、「何の成果に対して、誰から、どんな場で渡されたか」という文脈が、お金を衛生要因にも動機づけ要因にも変えるのです。


事例|阿智精機が動機づけ要因の制度化で
離職率と業績を改善

理論だけではイメージしづらいので、実際の中小企業の事例で「動機づけ要因→業績向上」の流れを見てみましょう。

中小企業庁が2023年に公表した「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」に、長野県阿智村の株式会社阿智精機(現ZESTIA株式会社)の事例が掲載されています。

同社は医療機器・食品装置などの製造を手掛ける従業員45名のメーカーで、部品製造から機械の組み立てまで一貫して受注する体制への業態転換を進めていました。ところが、業態転換に伴う負荷の中で、「評価と給与が連動していない」「自分が何をどう評価されているかわからない」という不満が社内に蓄積していました。

ここで多くの経営者は、給与テーブル自体の見直しに走りがちです。しかし阿智精機が取り組んだのは別のアプローチでした。

  • 技能育成シートを作成し、各従業員が伸ばすべき技術項目を明確化
  • スキルマップシートで全従業員の技能水準を可視化
  • 月1回の技術会議で従業員の技術と人間性を多面的に確認
  • 得意・不得意に合わせた適材適所の人員配置

これを二要因理論で読み解くと、こうなります。

取り組み 二要因理論での位置づけ
技能育成シートで目標を明確化 達成(動機づけ要因)の制度化
月1回の技術会議でフィードバック 承認(動機づけ要因)の仕組み化
適材適所の人員配置 仕事自体(動機づけ要因)の質向上
スキルマップで責任範囲を明示 責任(動機づけ要因)の見える化

つまり阿智精機は、給与テーブルではなく動機づけ要因の4つすべてを制度化したのです。これは、ジョブエンラージメント(横展開=多能工化)ではなく、ジョブエンリッチメント(縦展開=責任の見える化+仕事の中身の深掘り)の実践と言えます。

結果:士気向上と業績アップの両立

この取り組みの結果は、明確な業績指標として現れました。毎月の目標が明確になったことで従業員が意欲的に取り組むようになり、自社への愛着と現場の士気が向上。さらに主軸稼働率も2019年の26%から2022年に大幅向上しました。

社員が本当に求めていたのは「給料の額」ではなく、「自分の成長を見てくれているか」「適切に評価されているか」という、動機づけ要因の充足だった。ここに気づき、給与テーブルではなく動機づけ要因の制度化に投資した結果、社員の士気と会社の業績が同時に伸びたのが、この事例の本質です(※1)。


経営者は何から始めるべきか|順序が成果を決める3ステップ

理論と事例を踏まえて、明日から中小企業の経営者・店長クラスが取り組める実践ステップを整理します。重要なのは順序です。ステージ1(衛生要因)を飛ばしてステージ2(動機づけ要因)に手を出しても、効果は出ません。

図4:中小企業の経営者がやるべき3ステップ|衛生要因と動機づけ要因の整備順序

ステップ1|衛生要因が「マイナス」になっていないか棚卸しする

ステージ1の作業です。まず確認すべきは、衛生要因が業界水準を下回っていないか、です。

  • 給料は業界平均並み以上か(同業同規模との比較)
  • 残業時間は社員の生活を圧迫していないか
  • 休日や有給は実際に取得できる空気があるか
  • 上司・同僚との関係に深刻なハラスメントは潜んでいないか

ここが「マイナス」だと、社員は次々辞めていきます。まず衛生要因をゼロライン(業界平均)に戻すこと。これが離職を防ぐ必要条件です。

衛生要因を「具体的にどこまで整えるか」── ここから先は、林(2018)の中小企業57社実証研究にもとづく15項目セルフチェックと、「人が何よりの財産」を給料以外の仕組みづくりで実装した六花亭製菓の事例で詳しく追いました。続きは 社員が辞めない会社の15の衛生要因 にまとめています。

ステップ2|「達成」と「承認」を制度に組み込む

ここからステージ2です。衛生要因がクリアできたら、次は動機づけ要因の制度化です。

最も着手しやすいのは「達成」と「承認」の仕組み化です。

  • 月次・四半期で、社員ごとに具体的で実行可能な目標を設定する
  • 目標達成時に、上司から言葉で承認する場を必ず作る
  • 「良かった点」を全社員が見える形で共有する(朝礼、社内チャット、月報など)

阿智精機の月1回技術会議は、これを徹底した好例です。

そして、賞与や昇給を「承認・達成の機会」とリンクさせることもこのステップに含まれます。ベースの給料アップではなく、「あなたの〇〇という成果に対して」という文脈を必ず添えて支給する。同じ金額でも、伝え方ひとつで衛生要因にも動機づけ要因にもなりうる、ということを覚えておいてください。

ステップ3|「仕事自体」と「責任」を任せきる

ジョブエンリッチメント(職務充実)の本丸です。

  • 単純作業の繰り返しになっていないか、職務に縦の深みを足せないか
  • 部下に「最終判断」まで任せているか、それとも上司が握ったままか
  • 失敗を許容し、再挑戦を促す文化があるか

ここを変えるには経営者自身の「手放し」が必要です。多能工化(横展開)ではなく、責任権限の委譲(縦展開)こそが動機づけ要因の本体だ、ということを忘れずに。逆説的ですが、握り続けるほどやる気は失われる。権限を渡せば渡すほど、社員は責任を引き受け、その責任が動機づけ要因として働き始めます。


まとめ|「給料を上げる」だけでは届かない、
本当の組織づくり

最後に本記事の要点をまとめます。

  • 「給料が大事」が口グセになる職場ほど、人が定着しない。それは個人の本心の集合ではなく、組織風土として制度化された『お決まりの語り口』。背後には動機づけ要因が手付かずという構造がある。給料だけを上げても、賞与だけを増やしても、根本問題は解決しない。
  • 厚労省データが示すように、離職の引き金として表面化するのは衛生要因(給料・労働条件・人間関係)の不足。給料制度を放置していいわけではなく、業界水準を下回れば不満は爆発する。ただし衛生要因を整えるのは『必要条件』であって、『十分条件』にはならない──ここが二要因理論の核心。
  • ハーズバーグの最大の発見は「給料は衛生要因」という二分法ではなく、満足と不満が独立した別軸として動く非対称性。衛生要因が悪くても動機づけ要因が強ければ残る/衛生要因が良くても動機づけがゼロなら一気に辞める、という構造がある。
  • 動機づけ要因の4つには「お金」が一切含まれていない。達成・承認・仕事自体・責任。この4つの非金銭的要因こそが、社員のやる気を生み出す本体である。
  • 給料は支給される文脈次第で動機づけ要因にもなる。承認・達成・責任の機会と紐づけて支給すれば、お金は強い動機づけになる。逆にベース給だけ上げても半年で「当たり前」になる。
  • ジョブエンリッチメント vs ジョブエンラージメントの違い。多能工化(横展開)は不満を減らすだけ。責任権限の委譲(縦展開)こそが動機づけ要因の本体
  • 阿智精機の事例が示すのは、評価制度・育成・適材適所という動機づけ要因の制度化が、社員の士気と業績(主軸稼働率の大幅向上)を同時に動かすということ。
  • 経営者がやるべきは、①衛生要因をゼロに戻す、②達成と承認を制度化する、③仕事自体と責任を任せきる、の3ステップ。順序が成果を決めます

「給料だけ上げれば辞めなくなる」という発想を捨てるところから、本当の組織づくりは始まります。給料・労働条件は、社員が動き出すための「土台」にすぎず、土台の上に動機づけ要因の建物を建てなければ、いくら土台を厚くしても会社は動きません。


よくある質問(FAQ)

中小企業の経営者・マネージャーから寄せられる代表的な質問に、二要因理論の観点からお答えします。

Q1. 給料を上げても社員のやる気が上がらないのはなぜですか?

A. ハーズバーグの二要因理論によれば、給料は「衛生要因」に分類されます。衛生要因は不足すると不満を生みますが、充実させても満足やモチベーションには直結しません。給料アップは「マイナスをゼロに戻す」効果はあっても、「ゼロをプラスに変える」力はないのです。社員のやる気を生み出すには、達成・承認・仕事自体・責任という「動機づけ要因」を別途整える必要があります。

Q2. 「うちの社員はみんな給料が大事と言う」のですが、どう対応すべきですか?

A. 「みんなが『給料』と答える」という現象は、個々の社員の本心ではなく、その職場の組織風土として制度化された『お決まりの語り口』であることが多いです。経営学の議論でも、こうした職場は衛生要因(給料・労働条件・人間関係)にしか手が届いておらず、動機づけ要因(達成・承認・仕事自体・責任)が手付かずになっている可能性が高い、とされています。だから給料だけを上げても、賞与だけを増やしても、人は定着しません。給料制度を業界水準まで整えるのは大前提として、その上で、社員が達成感・承認・責任のある仕事を経験できているかを点検してください。動機づけ要因の不足が、全社レベルの「給料」発言として表面化しているサインです。

Q3. ジョブエンリッチメントとジョブエンラージメントの違いは?

A. ジョブエンラージメント(職務拡大)は、仕事の幅を広げる横展開で、多能工化や複数業務の兼任が該当します。これは不満を減らす効果はあっても、やる気を生む効果は限定的です。ジョブエンリッチメント(職務充実)は、仕事の深さを増す縦展開で、責任権限の委譲や最終判断を任せることが該当します。ハーズバーグが動機づけ要因として推奨したのは、後者のジョブエンリッチメントです。「色々な仕事を任せています」だけではやる気は生まれません。「最終判断まで任せていますか?」が問いになります。

Q4. 中小企業で動機づけ要因を制度化する第一歩は何ですか?

A. 最も着手しやすいのは「達成」と「承認」の仕組み化です。月次・四半期で社員ごとに具体的な目標を設定し、達成時に上司から言葉で承認する場を必ず作る。「良かった点」を全社員が見える形で共有する(朝礼・社内チャット・月報など)。本記事で紹介した阿智精機の月1回の技術会議は、この実践例です。

Q5. 部下のやる気を引き出すために、まず何をすべきですか?

A. まず「給料が安いせいだ」という診断を疑ってください。多くの場合、やる気がない部下が求めているのは給料ではなく、達成感・承認・責任ある仕事です。①小さくても達成可能な目標を設定して成功体験を積ませる、②達成・努力を上司が言葉で具体的に承認する、③本人に最終判断まで委ねて責任ある仕事を任せる。この3つから始めるのが効果的です。多能工化(職務拡大)に止まらず、責任権限の委譲(職務充実)まで踏み込むことが鍵です。「責任ある経営判断を疑似体験させる」という選択肢として、コンステラの 戦略MG(マネジメントゲーム)研修 がそのまま使えます(他社研修との比較は 経営シミュレーション研修の比較 も参考にしてください)。


次回予告

第3回は、なぜ中小企業の離職率が下がらないのか を「仕事の構造」から解き明かします。アージリスの 未成熟成熟モデル(単調な仕事が大人を子どもに戻す)と、それを経営者の人間観から捉えた マグレガーのX理論・Y理論。「経営者がX理論をやめたくてもやめられないのはなぜか」──そのうえで、この二要因理論の動機づけ要因を“仕事の構造”として作り直す職務充実の実装まで踏み込みます。

→ 第3回「中小企業の離職率が下がらない本当の原因|仕事の構造を直す


参考文献・出典

公的データ

学術論文

  • ※1 小本 恵照(2011)「フランチャイズ・システムにおける店長の動機づけの役割」『三田商学研究』53巻6号, pp.1-25, 慶應義塾大学商学会

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